
8月15日から17日までの3日間にわたり、同人誌即売会「コミックマーケット86」(以下、コミケ)が東京ビッグサイトにて開催された。
運営の発表によると、今回の来場者は合計55万人。
昨年の夏コミは59万人の集客があったので今年は約4万人減少した形となるが、これは集計方法の変更によるところも大きいようだ。
しかし、どちらにしろ50万人以上が集まる自主市なんて、世界のどこを探しても見つけることはできない。
コミケは間違いなく、世界最大の自主流通マーケットなのである。マスメディアもこぞって取材を行い、民放3社の朝のニュースなどでは好意的な特集も組まれていた。
かつての「ここに10万人の宮崎勤がいます!」といったネガティブなイメージは完全に払拭され、すっかりオタク文化がマジョリティとなりつつある。
さて、そんなコミケに今回、演歌界の大御所、小林幸子がサークル参加を果たした。
プロの第一線で活躍している彼女の同人イベント参入には、コミケ開催前からさまざまな物議を醸し出していた。
もちろん大物芸能人だからということもあるが、そもそもアマチュアの世界である同人業界において、プロが作品を出すことには難色を示す人が多いからである。
なぜかといえば、まずコミケに限らず、同人イベントには店と客という概念がない。
サークル側として自分が制作したものを頒布する人は“サークル参加者”、コミケの会場に来てそれぞれの制作物を購入する人は“一般参加者”であり、売り手も買い手も等しく“イベントの参加者”という立場を取る。
それぞれの参加者は、イベントを無事成功させるために、お互いマナーを守って売買を行う。
なので、当然売り手が上から目線でいてもいけないし、買い手がお客様気分でいても駄目なのだ。
お互いフラットな関係でなくてはならない。
ビジネスとしてお金を取って活動しているプロがそこに入ってくることを毛嫌いするのは、むしろ当然と言えるであろう。
しかし、いざフタをあけてみると、CD1500枚を即売し、5時間待ちの行列を作るなど大人気。
Twitterなど現場からの実況は小林幸子大絶賛の声で埋め尽くされていた。
小林幸子は、どうしてこうもコミケ参加者たちに受け入れられたのだろうか?
付近にいた参加者にその様子を聞いてみた。
「芸能人だからといってVIP入場するのではなく、普通にほかの人と同じようにサークル入場口から入っていました。
イベント中もずっと笑顔で手売りしていましたし、頒布物が完売した後も、並んでいる一人ひとりと握手されてましたね。
また、自ら周りのサークルにも挨拶していらっしゃったそうです」
大物芸能人だからといって特別扱いされることを受けず、コミケの基本精神(お互いが等しくイベント参加者)に則った行動をしていたからこそ、多くの人から賞賛の声が上がったのだ。
今まで演歌など聴いたことないような若い参加者も、コミケを機に小林幸子のファンになったといった話も聞く。
売り切れたCDはその後、ネットオークションで高騰するなど反響を呼び、再販の要望も多数上がっているそうだ。
今回、アマチュアの世界にプロが逆参入してきて成功を収めるという稀有な例を、小林幸子は示したと言えるだろう。
これを受けて、我も続けと参入してくるプロが、今後も現れるかもしれない。
メジャー流通の音楽セールスが頭打ちしている今、コミケの盛り上がりは確かに熱い。
しかし、だからといって安易にプロが参加したとしても、いい結果は生まれないだろう。
コミケの理念に沿った形で参加しなければ、いくら作品が素晴らしくても参加者たちから受け入れられることはないのである。
小林幸子は叩き上げの人と聞く。
地方営業であろうが中小企業の慰労会であろうが、これまでどんな客とも真摯に向き合ってきた。
だからこそコミケという場に来ても、ほかの参加者と同じ目線で接することができたのだ。
紅白歌合戦のラスボスは、やはり伊達ではない。

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